我が国新興株市場の低迷と、振興企業のIRの問題 2

また、新興株市場における新興企業、つまり上場しているベンチャー企業の責任も断ぜねばならない。すべてがそうだとは言わないが、新興上場ベンチャーの多くは、利益を株主に配当することよりも、成長のための原資として内部留保を優先する傾向にある。中には、先に論じたスカイマークのように、当初から株主配当を実施せず、何らの株主優待制度も提供せず、成長どころか低迷を続け、挙句の果てには株価を下落させ、株主を馬鹿にしているか、本当に株主を馬鹿としか思っていないような会社もある。すべての会社がスカイマークのようであるとは言わないが、大なり小なり「成長のために内部留保を優先」し、株価の上昇つまり「時価総額」を増大させることをIR上の公約にしている会社が多い。そのような、まさに砂上の楼閣形成を地で行く経営戦略が、今日に至って裏目に出ている感がある。
 
 大型株の発行主体、つまり大企業であれば、IRを行うにあたっては、経営戦略との整合性が図られるなど、十分な準備のもとで行われるであろう。例えば、最近日立がクラリオンTOBによる買収を発表したが、それには十分な裏づけと、根拠が存在している。しかし、新興企業においては、実はここが新興の新興たる所以にもなってしまうが、新興企業が上にあげた時価総額経営を遂行するにあたり、大企業なみのコンプライアンスなり準備をもって行われているとは、どうしても思えないのだ。例えば、堀江による一連の「プレスリリース」は、「近鉄バッファローズの買収」「宇宙旅行事業の開始」「堀江芸能ユニットの組成」等々、多分に話題性に溢れ、夢のあるものであったが、その根拠を疑うに、実に怪しいものであった。堀江がテレビの前で夢のような話を語れば語るほど株価が上昇したのが曲者で、堀江にとっては、株価を上げることが自らの最大の仕事であり、そのための手段については粗忽になる感があった。そして、その手の手段とは往々にしてエスカレートするものであり、当初は単なるホラ話で済んでいたものが、最終的には粉飾決算へと進行する運びになったのであろう。

 つまり、新興企業におけるIRの不十分と未熟、そして不当性が、今回の新興株低迷の遠因になったと筆者は見ている。いうなれば、堀江を代表例とする振興企業経営者の「自社株価上昇のためのホラ話」の、化けの皮がはがれた結果、本来価値へ収斂すべく株価は軒並み下落し始めたと見るべきであろう。しかし、一方で難しいのは、振興企業におけるIRの有効性や信憑性を、個人投資家が確実に判断するための情報や手段が用意されていないのだ。大企業であれば、例えば各種のアナリストが各種の情報を投資家に提供し、投資家保護に、また、健全な企業の運営に寄与している。しかし、新興企業の場合は、四半期ごとのIR情報がほとんど形式的に出されるのみで、決算公表などにおいても発言や発表の信憑性や信頼性を確認する手段がないのだ。特に、地方の投資家にとっては深刻な話で、この問題は十分に議論されるべきであると考えている。
(続く)