ライブドア錬金術のメカニズムを解明する:M&A編

株式分割と連動した錬金術ライブドアによる一連のM&Aである。同社が買収した企業は数多いが、ここで、M&Aについて簡単に説明し、同社がどのようにそれを悪用したかを考察してみよう。

 改めて説明するまでもないが、M&A(Mergers and Acquisitions)とは、企業の買収・合併のことである。M&Aの歴史は古いが、これが投資的手法として発達したのは1980年代にアメリカで起こったM&Aブームの頃であったとされる。ジャンクボンド(Junk Bond:投資不適格債権)を活用して多くの企業を手中に収めたマイケル・ミルケンや、ナビスコ買収で世に知られたKKR、不動産がらみの案件を得意としたドナルド・トランプといった名前が懐かしく思い出される。映画のモデルにもなったマイケル・ミルケンによる「諸君、強欲は善である(Gentlemen, Greed is good.)」という発言が物議を醸したのもこの頃だ。このアメリカにおける一連のM&Aブームが、良きにつけ悪しきにつけ、M&Aという投資技術を進化させたことは否めないであろう。

 さて、M&Aは大きくふたつに分類される。友好的と敵対的である。読んで字の如しであるが、現場では単純に行かない。友好的M&Aとは、買収する会社と買収される会社が正しく友好的に合併することである。これは通常、両社の利害が一致し、合併することにより経営上の規模のメリットが生じるといった、シナジー効果が認められる場合に行われる。例としては、最近の金融機関における大型の合併(例:東京三菱銀行UFJ銀行の合併)や、大手製薬会社における合併(例:山之内製薬と藤沢薬品の合併)等が挙げられる。
 
 一方、敵対的M&Aとは、買収する会社と買収される会社の利害が一致せず、敵対的な関係のまま行われるM&Aのことを意味する。例えば、村上ファンドによる一連のM&Aは、多くのケースにおいて敵対的に行われている。村上ファンドは、上場企業を対象に著しく低評価の株式を発掘し、その企業の株式を何らかの形で取得して経営権奪取を目指すという基本戦略をとっている。なお、この手法においてはTOB(Take Over Bit:公開買付け)と呼ばれる買付制度が併用されるケースが多い。これは、買収対象企業の株式の買取りを一般にアナウンスし(通常、買取株数と買取価格が公表される)、買取りを希望する企業や個人から株式市場外で株式を買い集める制度である。また、村上ファンドにおいては、株式による買収対象企業における経営支配を目指すと同時に、買収対象企業の既存株主から委任状を取り付け、株主総会における議決権を獲得するという手法も併用されるケースが多い。これは、一般にプロキシー・ファイト(Proxy Fight:なお、プロキシーとは英語で「委任状」のこと)と呼ばれ、株主総会が必ずしも株主に有利に展開されていないケースにおいて適用される。これを活用すると、株主議決権を十分に獲得していない場合でも、場合によっては株主総会において議決権を行使することが可能になる。これにより、買収コストを大幅に下げることが可能になる(ただし、既存株主が必ずしも委任状を毎回提出するとは限らないというリスクもある)。村上ファンドは、今日の我が国における敵対的M&Aにおいては、極めて先進的であると判断される。
(次回へ続く)