ライブドア錬金術のメカニズムを解明する:M&A編

 次に、敵対的M&Aにおける議決権行使のための、取得株式数の目安をもう少し説明しておこう。まず、買収側の買収目的が以下の場合、取得する株式数は一株でよい:

・ 各種書類の閲覧・謄写請求権(定款、株式取扱規則、株主総会議事録、取締役会議事録、株主名簿、計算書類、監査報告書等)
・ 子会社に関する上記権利
・ 書面による事前質問権
株主代表訴訟提起権(6ヶ月間継続保有要)

極端な例としては、ある会社に対する株主代表訴訟を提起するのが目的であれば、とりあえず一株をどこかから取得して、半年後に提訴すればよい。しかし、帳簿を閲覧したり、株主代表訴訟を起こすことなどは往々にしてM&Aの目的にならないので、通常は一株だけを取得することはなされない。M&Aにおいては、やはり経営権の取得が目的になるので、まずは発行済み株式の34%以上(特別決議の拒否権取得)、次に過半数以上(役員等の経営陣の選任が可能になる)、さらには三分の二以上(役員の解任権の取得、特別決議の獲得)の取得が目指されることとなる。ライブドアによる一連のM&Aにおいては、いずれの買収先企業においてもある程度のシェアが確保されていたことに注目されたい。特に、決算の承認や経営権の確保においては、グループ全体において堀江の意思決定が反映される必要があったため、多くは完全子会社(発行済み株式の100%をライブドア本体が所有している子会社)であった。グループ間において不透明な取引を行ったり、粉飾決算を決議するためには、当然の必要条件であったわけだ。

 このように、敵対的M&Aにおいては経営権取得の範囲設定が重要である。堀江は、前に説明した株式分割を行使して市場から巨額の不正利益を得、それを原資に敵対的および友好的M&Aを展開していたのだ(なお、一連のライブドア事件におけるM&Aにおいては、必ずしもすべてが敵対的に行われていたわけではないことにも注意する必要がある。いや、むしろ友好的にM&Aを進めるベクトルが強かったと考えた方がよいかもしれない。私が知るあるライブドアグループの企業の中には、むしろ積極的にライブドアによるM&Aを申し入れ、結託して株価上昇を狙った会社もあったくらいだ。その意味で、今回のライブドア事件は、堀江を一大領主とした、一つのバブル利益獲得集団として括ることも出来ると思われる)。
 
 私の見るところ、ライブドアによるM&Aは、当初は軒並み友好的に行われていたが、グループ全体の時価総額が増大するにつれ、徐々に敵対的な色合いを強めていったように見受けられる。ライブドアによるニッポン放送買収劇はその最たるものだが、敵対的買収には巨額の資金が必要でもあるため、展開の構図としては自然であるとも思われる。次回以降は、ライブドアによる友好的、敵対的、それぞれのM&Aのケースを検証してみよう。
(次回へ続く)