ライブドア錬金術のメカニズムを解明する:M&A編

既述したが、ライブドアによる一連のM&Aは、当初は友好的に、そして、最終的局面においては敵対的に展開された。これは、一方では、堀江を筆頭とするバブル利益獲得集団に対し、言うなれば「勝馬に乗らん」というかたちで自らM&A受諾を申し出る企業が、当初は少なからず存在していたということも意味している。私の知る某建築設計コンサルティング会社などは正に代表格であるが、モメンタムが好調の時のライブドアに対し、「私の会社もぜひ、御社のグループに加えてほしい」と日参していたと聞く。それらを包括して「友好的」とするにはいささか無理の感を覚えるが、いずれにせよ、当時の状況はそのようなものであったのだ。堀江という詐欺師が発生させたミニバブル経済に、有象無象の利益追求者達が、どんなかたちにせよ、一枚かませろと自ら関与を申し出たというのが実体であろう。

 例えば、会計ソフト開発の弥生という会社がある。この会社の歴史を調べるだけで一つの稀有なベンチャー・ストーリーが完成するが、この会社は、日の丸会計ソフトハウスとして意気揚々たるスタートを飾っていた。しかし、後の米系会計ソフトハウスによる買収劇に直面、商号変更、商標変更、現経営陣によるMBOと、一連の買収悲喜劇を体験する。最終的には、既述した株式分割によって資金を得た堀江らに買収され、ライブドアグループの一企業として落ち着くことになる。なお、話はそれるが、弥生の買収前の会社、Intuitは、赤坂の某所に事務所を構えていた。この事務所は、これまた堀江が買収しようとした米大手プロバイダPSIネットの、日本法人創業事務所の入居していたビルにあった。堀江は、その後PSIネット買収騒動に乗り出すが、この時点において、堀江の詐欺師的資質が読まれてしかるべきであったろう。堀江は、買収対象企業の事業性よりもその話題性にのみ着目し、市場におけるインパクトを推量していたに違いない。その意味において、堀江は、やはり天才的な詐欺師であると言える。

 いずれにせよ、弥生に対するM&Aは、あくまでも友好裏に展開された。先も述べたが、友好的M&Aとは、売主と買主の利益が一致するかたちで展開される。ここでの利益とは、例えば規模のメリットであったりするが、堀江のケースにおいては、繰り返しになるが、ライブドアブランドによって発生した一連のミニバブルにおけるバブル利益のおこぼれにあずかろうとする「利益一致集団」によって追求された点に注意する必要がある。そして、そこでの価値基準は「投資家を欺くことによって利益を獲得する」に、大なり小なり帰着するのである。

 一方で、大変残念であったのが、堀江のミニバブルの恩恵を受けたのは首謀者たる彼らのみならず、彼らを支えた24万人のデイトレーダーであったことである。我が同志たる読者は例外だが、斯様なミニバブルをあおった責任は少なくないと言わざるを得ない。詐欺の全体的成果がプラスであれば文句なし、マイナスになれば「堀江許さず」というのでは、自己責任の回避といわれてもやむを得ないであろう。ライブドアによるミニバブル形成には、やはり「無知」なる投資家が存立基盤として存在していたとせざるをえない。
(次回へ続く)