ライブドア錬金術のメカニズムを解明する:M&A編

 今回のコラムを書いている最中、オリジン東秀に対するドン・キホーテとイオンによるTOBのニュースが飛び込んできた。友好的M&Aと敵対的M&Aを解説するのに好都合なケースであるので、話は少々脇道にそれるが、項を割いて検証してみよう。

 オリジン東秀は、持ち帰り弁当や中華料理店FCの中食事業で急成長している東証二部上場の優良企業である。一方、ドン・キホーテは自社の戦略小売店ピカソ」を中食特化型コンビニエンスストアに進化させるべく、以前よりオリジン東秀との業務提携を模索していた。実際、ドン・キホーテはすでに、同社代表取締役である安田隆夫氏と、100%子会社のセルバンテスと合わせて、オリジン東秀の発行済み株式総数の約30.92%に相当する546万1398株を保有している。今回のTOBにより新たに358万900株を追加取得し、子会社などと合わせた持ち株比率を51.20%まで高める予定だそうだ。さて、ここで思い出していただきたいのは、以前のコラムで説明した買収側企業の買収目的に応じた取得必要株式数である。敵対的M&Aでは、株主総会における以上の議決のうち、どの議決における支配権を確保するかが問題になる。例えば、取締役の選任を目指すのであれば発行済み株式の51%を取得することが目標になる。また、既に選任された取締役の解任を否決することのみを目的とするのであれば、発行済み株式の34%を取得すればよいことになる。ドン・キホーテは、持ち株比率を過半数以上にすることを目的にしていると公言しているので、同社の目的はオリジン東秀の取締役会を支配することにある。

 では、なぜドン・キホーテオリジン東秀の取締役会を支配することを目指しているのであろうか。ここに、今回のTOBについてドン・キホーテが自社のプレスリリースで発表した声明文がある。原文のままご紹介しよう。

「(前略)しかし、これまでの両者の提携は、「ピカソ」内に「オリジン弁当」がテナントとして出店する形態にとどまっており、次世代型コンビニエンス・ストアの出店に目処が立っていないなど、両者の事業提携を成功に導く上で必要な条件であるスピードが不足していると言わざるを得ない状況であります。ドン・キホーテは、両者の事業提携が十分な成果を挙げるためには、オリジン東秀の経営陣との協力のもと、事業提携の内容を具体化していくスピードを早めるための体制を構築することが必要であると考えております。そこで、オリジン東秀の事業パートナーであり、大株主でもあるドン・キホーテは、オリジン東秀の中期経営計画の達成可能性を高めるためにも、熟慮した結果、両者の事業提携の強化に向け、取締役の派遣などを含めて、オリジン東秀の経営へのコミットメントを高めることを選択し、公開買付けの実施を決定いたしました」

 なるほど、「ピカソ」の事業転換にオリジン東秀の中食事業が有効であると判断されたため、オリジン東秀の発行済み株式の過半数以上を奪取して取締役会を支配する必要を認めたわけだ。しかし、前回のコラムで説明したが、M&Aには結婚と同一の趣があり、一方の当事者だけの思惑で事が成就することはまずありえない。今回のドン・キホーテによるTOBに対し、オリジン東秀の側では、当然予想されたこととして、関係者一同の反発が沸き起こったのである。
(次回へ続く)