ライブドア錬金術のメカニズムを解明する:M&A編

 敵対的買収に際して「ホワイト・ナイト」が現れない場合、被買収企業はどのようにして身を守るのであろうか(なお、我が国上場企業におけるM&Aの場合、どのようなケースにおいても「ホワイト・ナイト」はまず出現すると思われる。なぜなら、我が国においては、アメリカ的な敵対的買収がまだ本格的に行われておらず、「ホワイト・ナイト」が尻込みするような状況にまで至っていないからである。しかし、今後は様相が変わってくると予想される)。ここで、一般的に行われる買収対抗策を紹介する。

 第一は、被買収企業による第三者割当増資である。これは、被買収企業の取締役会で第三社に対する新株の割り当てを決議し、買収企業の被買収企業株式持分比率を希薄化させるという防衛策である。未上場企業の場合は特に、被買収企業の取締役会が同族によって構成されている場合が多く、この防衛策が取られるケースが多い。

 また、現物株式の第三者割当増資に類似しているが、被買収企業が上場企業の場合、当該企業の新株予約権の発行による買収防衛策も取られる。これは、2005年3月にライブドアニッポン放送を買収しようとした際にニッポン放送が取った防衛策でもあるが、憶えておられる読者も多いと思う。この方法では、通常の増資とは異なり、指定された第三者新株予約権を取得することができる(なお、ニッポン放送のケースではフジテレビ)。新株予約権は、あらかじめ決められた価格で株式を取得できる権利で、いわば“予約チケット”のようなものである。従来は、転換社債や新株引受権付社債ワラント債)等の、株式に転換できる社債の発行は認められていたが、株式を買える“予約チケット”を社債と切り離して発行することは認められていなかった。しかし、社債の発行にはコストがかかるうえ、機動的で多様な資金調達を行うには株式を買える“予約チケット”と社債の発行を切り離す方が望ましいとの要望が産業界から強まり、2002年の商法改正で、新株予約権だけを単独で発行できるようになったのだ。今後は、ライブドアの行ったような敵対的買収が増加すると予想され、そのため、新株予約権を使った企業防衛のケースは比例して増加してくるものと思われる。

 敵対的買収に対する防衛策の第二として、MBO(Management Buy Out)が挙げられる。MBOとは、企業の現経営陣による自社株の買収が基本的な意味である。例えば、株主と取締役会の方向性が必ずしも一致していない企業の場合、現存株主から株式を取締役が買い取ることによって支配権を取締役に移行させる。また、複数の事業部を持つ企業の場合、経営資産の分散化を防止する目的から事業の選択と集中を行い、その結果、特定の事業部を独立させた方が経営効率が高まるといったケースが生じる。その場合、当該事業部の経営陣が当該企業から当該事業部の営業譲渡を受けて独立する。いずれのケースにおいてもポイントとなるのは、買収の対象となる企業ないし事業部において、その経営そのものが経営陣に属人的に依存しているという点である。つまり、あるカリスマ社長なり部長なりの人的力量でもって経営そのものが維持されているというケースである。このような場合、買収者がいくら買収を持ちかけたところで、カリスマ社長が独立してしまえば買収は元も子もなくなってしまう。買収者が現れた場合、カリスマ社長はさっさと独立してしまえばいいからである。
(次回へ続く)