ライブドア錬金術のメカニズムを解明する:M&A編

 MBOは、最近は外部の資本と連携して行われる場合も多い。巨額の設備投資を伴わないケースや、法的規制のかかりにくい業種においては、経営陣の人的力量がそのまま企業業績に反映するので、外部資本がスポンサー的な関与をすることにより経営陣を独立させるというスキームが成立するわけだ。もちろん、あらたに設立される新会社は、その後のIPOをエクジットとしているケースが多いのは言うまでもない。もし、買収企業がライブドアのような潤沢な投資資金をもって敵対的買収を仕掛けてきたら、経営陣は外部の金融機関からファイナンスを受けて独立し、元の会社を「もぬけの殻」にすることにより、敵対的買収そのものを意味のないものにすればよいのだ。

 なお、ご参考までに、以上の他の敵対的買収防衛策として以下を挙げておく:

(1) ゴールデンパラシュート

これは、被買収企業の経営陣ならびに従業員に対する退職金金額を買収に備えて大きく積み増し、買収企業に買収を思いとどまらせる買収防衛策である。買収に際し、現経営陣等が解任される可能性がある場合、この手法が検討されることが多い。このスキームの発祥地は自ずと知れたアメリカであるが、我が国においてもこのスキームが今後一般化するものと予想される。現在は、退職金の所得税課税の問題等があり、それほど一般的になっていないが、退職金支給規定にある程度のバッファ的素地が付与される可能性が高まる今後は、我が国でも一般的になるものと予想される。

(2) 焦土作戦

これは、被買収企業が、例えば含み資産などを多く保有しているといった場合に、被買収企業が買収に備えてあらかじめ保有資産を第三者に譲渡するなどし、買収のメリットを喪失させるという企業買収防衛策である(軍事用語であるスコーチド・アース・ディフェンス(Scorched-earth Defense:航空機による爆撃により標的範囲単位で一掃するという戦略作戦のこと)が語源。なお、この文脈においては、該当する保有資産はクラウン・ジュエル(Crown Jewel:王冠の宝石)と呼ばれ、「流動的売却の対象」というニュアンスを含んでいる)。村上ファンドは、投資(買収)候補企業の選定にあたり、含み資産の発掘に特に力を入れているが、そのようなケースにおいて有効的に機能されうる手法である。例えば、村上ファンド阪神電鉄保有する不動産の含み益に着目した場合、被買収企業である阪神電鉄は、村上ファンドTOB等で買収活動を開始する以前に関連企業に同資産を譲渡・売却し、村上ファンドの根本的目的を挫けばよいことになる。この防衛スキームは、特に歴史のある上場企業においては、今後ますます活発に使われてゆくものと予想される。
(次回へ続く)