ライブドア錬金術のメカニズムを解明する:M&A編

 なお、焦土作戦の実施にあたっては、株主総会の特別決議が求められる「会社重要資産の売却」事案に抵触する可能性があるので注意が必要である。特に、特別決議における拒否権を、例えば買収企業等に握られている場合、決議そのものが否認される可能性がある。

 ライブドアの行った一連のM&Aに関連し、少々字数を割いて解説を行ってきた。概括的に綴ると、ライブドアによるM&Aとは、とどのつまりM&AのためのM&Aであり、その目的は、ライブドア本体を含めたライブドアグループの株価吊り上げにあった。そのため、堀江らは買収対象企業の事業そのものを評価することはなく、あくまでも「話題性」や「市場へのインパクト」を評価して買収に臨んだ。なお、筆者の知るあるライブドアM&A案件では、被買収企業が「損益計算書」「バランスシート」「キャッシュフロー計算書」といった「当たり前に準備されるべき財務諸表」を「作成」することもなく、ただ「アラブのオイルマネーが増資原資として入る予定です」という類の「噂話」を担保にライブドアからの出資を引き出そうとしたケースもあったくらいである(嘘のようだが、まったく本当の話である)。幸か不幸か、この話は堀江らの逮捕によって実現の日の目を見なかったが、堀江の逮捕があと数ヶ月でも延びていたら、本当に実現していたフシがあるから手に負えない。「市場の狂気」が堀江を斯様に行動せしめたのか、あるいは「堀江の詐欺性」が市場を狂わせたのか判然しないが、熱狂と言う名のモメンタムとは、本当の意味における台風のようなものであるかも知れない。

 上のオイルマネー投資案件に話を戻すと、話の当事者達は、あくまでもライブドアによる投資を受け入れることにのみ関心を集中させており、当の事業そのものは当初からまったくなされていなかった。オイルマネーを受け入れた後に展開される予定であるという不動産投資信託事業は、構想そのものはパワーポイントのプレゼン資料に表現されたが、所管監督省庁への手続きを含めた事務手続きなどすら実施されることはついになく、幻に終わったライブドアからの投資を待つだけで(投資家を含めた)関係各者の活動は終了した。これをもってひとつの詐欺事件とするにはいくつかの課題が浮上してくるが、これを誰の責任にも帰せないとするのも一方ではモラルハザードのそしりを免れないであろう。

 投資的観点からは警鐘の百貨店のような感をおぼえた今回のライブドア事件であるが、我等が投資家においては、やはりこれを一つの貴重な他山の石とすべきであろう。全貌が明らかになりつつある現在において、ようやく客観的自己批判が展開され得る状況に至ったが、当時の市場および投資家は、あくまでも「堀江大歓迎」の姿勢をとっていたことを忘れてはならない。繰り返しになるが、資本の論理が透徹する株式市場においては、堀江のような詐欺師は今後も必ず登場してくる。我々は、斯様な詐欺師を見抜く眼と術を持たねばならない。

 さて、来週からはサブジェクトを替え、最近話題の投資事業組合について論じてみよう。