ライブドア錬金術のメカニズムを解明する:投資事業組合編

 1998年に制定された中小企業等投資事業有限責任組合契約に関する法律が、2004年に投資事業有限責任組合(通称「ファンド法」)に改正され、現在、多くのベンチャー・キャピタルや投資ファンド等に活用されるに至っている。この、ファンド法の規定に基づいた投資事業組合が今回のライブドア事件でも使われたもので、法改正による功罪が皮肉にも露呈するかたちとなってしまった。

 改正前の中小企業等投資事業有限責任組合契約に関する法律では、組合の投資対象を原則的に中小企業の未公開株式に限定していた。しかし、現実の投資活動においては、投資先は上場企業を含めた大企業や、不動産、金融債権等と多岐に渡るのが普通であり、現実に即した要求としてそれらを投資先として認めるよう法改正が求められた。結果的に、2004年に現在のファンド法が施行されたのだが、これにより、投資先を分散化、流動化することによる不透明性の高まりが弊害として具現した。投資家の善意に従えば、ファンド法の施行により投資のリスク分散とパフォーマンス向上に寄与することが期待されたが、一方、投資家の悪意に従えば、投資の不透明性をもって粉飾や偽計といった不正行為を水面下で行うことを可能ならしめることにもなったのである。

 なお、話をさらに進める前に、投資事業組合における出資者の匿名性について触れておこう。投資事業組合における出資者(ファンド法においては有限責任組合員)は、原則的に匿名である。もともと私募ファンドであり、そもそも出資者の情報を一般に公開する必要も義務(法律による規定)もない。ファンドの原型は、あくまでも「有志による投資組合」であり、もともと私的で閉鎖的なものなのだ。例えば、ある投資事業組合「ニュージャパン投資事業組合」の組成したベンチャー投資ファンド「フロンティア投資一号ファンド」が、以下の内容で出資を募集していたとする:

ファンドの名称 フロンティア投資第一号ファンド
ファンド運営者 ニュージャパン投資事業組合
投資対象 ネット、モバイルに特化した未公開ベンチャー企業
ファンド発売日 平成18年2月13日
募集総額 50億円
出資単位 10万円(1口)
投資単位 10口以上
募集期限 平成18年3月12日

 あなたがこの投資に興味を持ち、100口出資したとした場合、あなたが出資したという事実や、あなたの氏名や住所といった個人情報が外部に漏れることなどはじめから想定していないはずだ。この、「投資事業組合における出資者の匿名性」こそ、今回のライブドア事件における違法の手口の存立基盤である。読者は十分にご留意いただきたい。
(次回へ続く)