ライブドア錬金術のメカニズムを解明する:投資事業組合編

 投資事業組合における有限責任組合員(出資者)の匿名性について、さらに続けたい。一連のライブドア事件の中で、もっとも暗いニュースであったのがエイチ・エス証券の野口副社長の自殺であった。同氏の自殺は現在でも様々な憶測を呼んでいるが、我々の業界では自殺以外の線が暗黙裡に疑われている。詳しくは避けるが、同氏は、一連のライブドア事件が関与した投資事業組合および組成ファンドの運用について、誰よりも熟知していたとされる。特に、現場の最高責任者であったことから、外部には「秘匿」されている情報を、隈なく知る立場にあった。それらの情報とは、出資者そのものの情報や、出資に関する情報、クロージングに関する情報といった、すべての情報が含まれている(なお、これ以上の言及については自粛させていただく)。

 投資事業組合の秘匿性、匿名性についてさらに続ける。投資事業組合では、投資事業組合が別の投資事業組合の組合員になることを妨げていない。つまり、もともと秘匿性の高い投資事業組合が、別の投資事業組合の組合員になることにより、さらに秘匿性を高めることが可能になるのだ。また、投資事業組合によって出資された投資事業組合が、さらなる投資事業組合に出資することによって、秘匿性を限りなく高めてゆくことが可能になる。これに、ケイマン島といったオフショア(海外)に拠点を置く投資ファンドなどが加わってくると話は幾何級数的に複雑になってくる。今回のライブドア事件においても、既に香港、スイスといった国名がそぞろに出始めているが、これが果たして何を意味するかについては、上の状況に照らすと全体像の概要がおぼろげに見えてくるであろう。

 なお、香港、スイスといった外国を巻き込んだ経済犯罪としては、投資事業組合を悪用するケース以外に、脱税等のマネーロンダリングも注目される。堀江は、既に脱税の疑いもかけられているが、投資事業組合の連鎖利用による偽計のほかに、特にスイスにおける資産秘匿の違法行為も疑われる。なお、堀江による資産秘匿と、スイスという永世中立国の関係については、別に改めて論じて見たいと思う。

 投資事業組合における組合員の秘匿性は、もともと投資事業組合の設立背景から結果的にそうなっただけのものであるので、話がややこしいい。今回の事件を受け、金融庁では投資事業組合の組合員と出資に関する情報を開示するよう法律を改正することを検討しているそうだが、投資の原則を鑑みるに、実現は難しいと思われる。出資者が少数の私募的投資事業組合は、そもそも「私的互助会的任意団体」の性格が色濃いため、「情報開示」とは二律背反の関係になってしまうからだ。また、投資家を市場へ呼び込むためには、ある程度の情報秘匿はどうしても必要になるので、資本の自由化の流れに逆行する恐れもあるからだ。投資事業組合の組合員数が、例えば100名以上であるといったような、半ば「公的」色合いが濃いケースにおいては、構成員情報を公開させるなどの限定的措置が取られることになると思われるが、投資事業組合そのものの本質的機能は今後も変わらないと思われる。

 さて、次回からは堀江率いるライブドアが、投資事業組合を具体的にどのように悪用したかについて検証してみよう。
(次回へ続く)