ライブドア錬金術のメカニズムを解明する:投資事業組合編

 今回のライブドア事件ような大型経済事件が発生すると、当然のことのように行政当局による規制を求める声が沸きあがる。堀江を放置した責任はそもそも金融庁にあるといった類の話である。しかし、筆者の意見をあえて言わせていただくと、今回の事件の結果、行政による規制を強化するというのは本末転倒だと思う。資本主義経済の下では、堀江のような詐欺師は必ず一定頻度において出現する。問題は、詐欺師を早期に発見し、摘発し、きちんと刑罰を与えることだと思う。アメリカでは、マイケル・ミルケンといった大物「詐欺師」が存在していた。ジャンク・ボンド市場を創造するなどし、一時はアメリカ経済界の寵児的扱いを受けていた同氏であるが、ジャンク・ボンド市場の崩壊とともに同氏の評判は凋落、詐欺罪で告訴され、刑務所に収監される羽目になった。同氏に対しては、複数の有罪判決をもって長期の懲役刑が課せられたが、同氏に対して一定の社会的貢献を求めることにより司法当局が量刑を酌量したことが印象的であった(これは、ほとんど笑い話に近いが、コミュニティ・サービスと呼ばれる「地域ボランティア」の仕事を行ったりするものである。アメリカは車社会であるが、大都市の高速道路の路肩に捨てられるごみを拾い集めたり、地元の小学生を相手に脱税の違法性を講義したり、老人ホームに出向いて孤独な老人の話し相手になったりする、といったことをさせられるのである)。既に刑期を終えた同氏は、市場での活動については一定の制限が未だに課せられているが、一昨年には来日し、ジャンク・ボンドと企業再生ファンド市場創設についての講演も行ったりし、その道での活動を再開しつつあった(なお、筆者も同氏と交流があるが、経済と株式に関する大変な造詣を持つ偉大な人間であると表明しておきたい。堀江のような小学生的詐欺師とはまったくレベルの違う人間であると同氏に変わって主張しておく)。ミルケン氏は、そもそも天才的投資家であり、過去の反省を十分に行った今後改めて市場に復活し、再度の成功を収めることになると確信している。しかし、うそつき小学生に毛が生えた程度の単なる詐欺師に過ぎない堀江については、やはり単なる詐欺師として一生を送るであろうとしか想像が出来ないのである。

 ライブドアの株価がついに80円を下回り、上場廃止へ向けた最後のマネーゲームが開始された。砂上の楼閣理論は筆者の最もお気に入りの経済理論の一つだが、砂上の楼閣の形成にはプレーヤーにおけるババ抜き手が必要であったことを改めて認識している。企業のファンダメンタルズなどさておき、短期のババ抜き的マネーゲームに明け暮れる面々は、「自分より馬鹿な人間は必ずいる」という前提の上、利口なギャンブラーとして一生を送るつもりなのであろうが、堀江という愚かな詐欺師は、そのようなギャンブラーの絶大なる支持をもって「事業」を拡大してきた。そして、自らの発生させたバブルの終焉をもって、支持者であるギャンブラーとともに投資活動を終焉させる運びとなった。堀江の罪も重いが、それを支えたギャンブラーの罪も重い。絢爛豪華たる六本木ヒルズの生活から一転、三畳一間の住民となった堀江は今、何を考えているのであろうか。