ドン・キホーテによるオリジン東秀TOBその後

 ドン・キホーテの高橋専務は2月16日夜、記者会見し、オリジン東秀の労使に、株買い増しへの強い反発があることについて、困難は承知だが必ずクリアできるとの見通しを示した。同専務は「過去の経緯で、微妙な食い違いがあったのは事実。説明不足を解消して必ず克服できる」と語った。また、オリジン東秀株式の過半数を取得した時点で現経営陣の入れ替えはあるかと聞かれ、同専務は「その意図があるなら三分の二以上の株式取得を掲げたが、現時点での上限は過半数。現経営陣の意欲を尊重する」と述べた。「ドン・キホーテを手中に収めるために少々強引にやってしまったが、いずれにせよ、労使を手なずけることは可能であろう」といったところであろう。

 同氏の発言からは、輿入れ(こしいれ)を嫌がる許婚(いいなずけ)を強引にホテルの一室に閉じ込め、「まあ、手篭めにすればどんな女だってそのうち慣れるさ」といっているような感じを憶える。この手の言い草をすること自体、買収者としての品格を疑うべきであろう。

 さて、当方の予測では、オリジン東秀側は防衛策として以前にご紹介したMBOを仕掛ける可能性が高いと考える。仮に証券取引等監視委員会ドン・キホーテ側に有利な判断をしたとしても、買収にはなから反対しているオリジン東秀側の労使が、「それだったら外部資本とくっついてMBOするさ」と開き直ればそれまでだと思われる。

外食産業は立地産業といわれるが、以前に紹介したケースがここで思い出される。ノウハウや開発力といった付加価値要素の高いリソースを自社の事業に付加できる場合、事業そのものの存立基盤はその付加価値を生み出す人材に帰着する。オリジン東秀の労使こそ付加価値を生み出す源泉であり、彼らの属する会社という公器がたまたたまオリジン東秀に過ぎないと考える。ドン・キホーテの幹部は、あくまでも自社の展開するコンビニ店「ピエロ」へのオリジン東秀ビルト・インを「次世代型コンビニ」展開の必要条件としているようであるが、その必要条件を構成する命題を支える最大のものがオリジン東秀の人的資産であることを、完全に見落としているように思われてならない。

今回のドン・キホーテによるオリジン東秀TOB事件は、M&Aにおける人的価値評価の必要性を改めて認識せしめた。事業の展開に人的依存しないケースにおいては、M&Aが物理的リソースを獲得する目的から実行される。パチンコ屋や立ち食いソバ屋のM&Aなどは、その極端な例である。しかし、今回のTOB事件は、立ち食いソバ屋買収以上の人的価値評価の必要性が認められ、一方で、ドン・キホーテ側にはそれを過小評価する向きがあると思われる。ドン・キホーテは、非属人的店舗運営スタイルを徹底しているようであるが、人的資源を原発とする付加価値の更なる付加が小売業に求められる今後、同様の手法がオリジン東秀においても有効であるとはどうしても思われない。同社のTOBが成立したとしても、人的な部分から必ずや崩壊を来たすものと心から信じている。