ライブドア錬金術のメカニズムを解明する:脱税編

 税務署OB税理士は、税務署ムラ社会の論理を自分たちの職業倫理に盛り込んでいることもあり、取り扱いには注意が必要であろう。あなたが税務署ムラ社会との「共生」を指向するのであれば、この種の税理士を囲い込み、自社ビジネスのツールとして使うことには大いなる意義がある。しかし、一旦彼または彼女と対立すると、大なり小なり税務署と対立することになるので始末におえなくなる。税務署OB税理士とは、まさに毒にも薬にもなりうる厄介な存在であるといえよう。

 さて、第三の税理士である「その他の税理士」であるが、これは第一第二と比するに、まさに玉石混交の感を催す税理士である。第一の税理士が税理士試験を突破して税理士になり、また、第二の税理士が税務署・国税局での一定期間以上の勤務を終えて税理士になるのに比し、第三のタイプの税理士は、「その他の何らかの手段によって税理士になった税理士」である。その、「その他の何らかの手段によって税理士になった税理士」とは、悪名高き「ダブルマスター」によって無試験で税理士になる手合いのことを主に意味する(なお、ここで言うマスターとは、修士号を意味するMaster’s Degreeのマスターのことである)。懸命なる読者のうちご存知の方は多いと存ずるが、つい最近までの我が国では無試験で税理士免許を獲得する方法が存在した。それがいわゆる「ダブルマスター」であるが、これは、税理士試験の科目免除制度を活用したもので、税理士試験の会計・税務科目と法律科目に対し、会計系の大学院に通学し、商学経営学修士号を獲得すると会計・税務科目を免除し、また、法律系の大学院に通学し、法学修士号を獲得すると法律科目を免除し、その結果、両方の学位を取得すると自動的に税理士免許を国家が付与するという仕組であった(なお、一時はダブルマスターに特化した三流大学がそれを声高に宣伝していた)。税理士試験は、それなりの難易度を呈する試験でもあり、合格率は必ずしも高くない。しかし、士業を生業とする輩は子息を世襲させようとするのが我が国一般の風習であるので、税理士または会計士の親は、自分の息子の出来が悪い場合は以上に述べた「ダブルマスター」によって税理士免許を獲得させてきた。「税理士先生」は世にゴマンとあるが、ほとんど定期的に「想像を絶する税理士」に遭遇することがあるのはこれも原因している。無試験で税理士になったという輩においてほど、「専門職」を云々することの危険性はないであろう。

 なお、近年「ダブルマスター」制度は若干改正され、さすがに無試験で税理士になる道は閉ざされたが、それでも科目免除の制度は依然として残存され、「出来の悪い税理士の息子」への裏道は残されたままである。これは、我が国の既得権保護についての国民的キャラクターがそれを許すのか、または、税理士に対する国民的要求水準が一般的に低いのかいずれに原因があるか判然としないが、文化社会学的にも一考に価する研究テーマではある。なお、税理士なる職業人の国際的特殊性においても考察が可能かもしれない(なお、税理士なる職業は先進諸国でも我が国を含めて数カ国において存在する、特殊職業であることに留意されたい)。脱税の罰則が軽微な我が国においては、そもそも税金を徴収するという国家制度の中においてのみ、存在が許されるのかもしれない。
(次回へ続く)