ライブドア錬金術のメカニズムを解明する:脱税編

 なお、すべての「ダブルマスター税理士」がボンボンの馬鹿者ではないことを明言しておこう。既述したとおり、ダブルマスターとは会計・税理科目の修士号と、法律学修士号の両方を取得して税理士免許を付与されるものであるが、会計・税理科目の修士号取得者とは、往々にして公認会計士免許の取得者も含んでおり、また、法律学修士号取得者とは、同様に司法試験の合格者も多分に含んでいるのである(弁護士で税理士を兼務している人間はこのタイプが多い)。それゆえ、先に玉石混交と申し上げたが、これらのタイプの税理士は、「ダブルマスター税理士」の中ではまさに玉に属するタイプであろう。

 税理士を雇う際、さすがに「先生はどのタイプの税理士ですか」と聞くわけにはいかないので、雇用側としては気になるところであろう。最終的には、その税理士の人脈から探るしかないが、このところの頃合いは、医者における人脈情報に近いものがあると思われる。

 話を税務署OB税理士に戻すが、今回のライブドア事件において、堀江の相棒が1)のタイプの税理ではなく、税務署OB税理士であったとしたら、今回のような事件はまず起きなかったであろうと断言する。既述したとおり、税務署OB税理士は税務署・国税局のムラ社会の構成員であり、ムラ社会全体が迷惑を被るような犯罪事件の片棒は、まずかつがないからである。堀江の知己と言える宮内は、大変悲しいことに苦労して税理士試験を突破した輩であった。宮内は、高卒であることを何よりも恥じ、学歴コンプレックスが常に彼を悩ましていたと聞く。学歴コンプレックスを超越するのは、金か社会的地位かということであろうが、宮内の脳裏にそれらがあったとしても、あながち不自然なことではないであろう。否、それらがあったゆえに国際的脱税行為を含めた犯罪をあえて犯したと、推測できなくもない。

 ライブドアの脱税事件に税理士が直接関与をしていたとすれば、これはこれで大変興味深い事件であるとも言える。正しい納税を行わしめるのが税理士の基本的役割であるが、正しくない納税を率先して行わしめていたとすれば、税理士たるものとして、そこにはよほど強烈なインデュースメント(促進要因)があったと見るしかない。逮捕後の堀江の、一連の言動を眺めるに、いたずらを見咎められてひたすら抗弁する小学生の感を覚えるが、もしかすると堀江は本当に何も知らなかったのかもしれない。堀江は、自ら本を読まないことを自慢しているが、非読書家にありがちな頭脳の運動不足を、この段におよんで世に露呈したようである。一方、学歴コンプレックスを十字架として背負っていた宮内が、ライブドア時価経営の当初の成功に酔い、それを永遠に持続させることにより自らのレーゾン・デーテル(存在理由)を確立しようとしたのであれば、それはそれでやはり子供じみた行為であるとせねばなるまい。ライブドアという集団は、良きにつけ悪しきにつけ、所詮は子供同士のままごと遊び的経済犯罪組織であったのであろうか。
(次回へ続く)