姉歯マンション事件とライブドア事件の類似性(2/2)

 確かに、一般の人間は不動産についての専門家ではない。しかし、姉歯マンション軒並み、近隣物件や類似物件に比べ、明らかに格安であったと聞く。問題は、「明らかに軒並み格安であった姉歯マンション」を、きちんと検証することなく、先方の営業マンの口車にのせられてしまったことにあったのではないか。消費者として行うべきことを行わずして、その結果損失が表面化したら、「国が姉歯を放置したのがそもそも悪い」「審査業務を民間に委託している時点で国家として責任を放棄している」とくるのだから、これはやはり始末におえないとせねばなるまい。これが、先に私がわが国では「投資」の概念がきちんと一般化していないと考えているとしたことの理由である。

 ライブドア事件についても同様である。ライブドアという会社は、そもそも極めて怪しい会社であったのは公然の事実である。「ライブドアって、一体何をやっている会社なのかご存知ですか?」という問いに、正しく回答できた投資家はほとんど存在していなかった(多分、今もほとんどいないと思われる)。何をやっているかわからない会社に投資をするという時点ですでに問題であり、さらには、その会社の株価が、一般相場以上に「割高」であったにもかかわらずそれに投資をしたことが問題なのである。ソフトバンクインベストメントの北尾氏は、早くからこれらの点を強調し、投資家にライブドアに投資することに注意するよう促していたまずだ。

 偶然にも連続して発生した姉歯マンション事件とライブドア事件は、我々に投資の原則を守ることの重要性を再認識させてくれた。市場の流動化が加速する中、我々はあらためて投資の原則を徹底する必要がある。では、我々が徹底すべき投資の原則とは何であろう。私は、それを過去のある偉人に求めたい。

 その偉人の名は、ベン・グラハム(Ben Graham, 正式にはBenjamin Graham)という。賢明なるわが読者の中ではお聞き及びの方も多いと思われるが、ベン・グラハムは古典投資技術であるValue Investingの発明者であり、コロンビア大学ビジネススクールの名物教授であり、また、かのウォレン・バフェットの師でもある。バフェットは、グラハムのもっとも忠実かつ優秀な弟子であったとされ、また、同氏の率いるバークシャー・ハザウェイ社の投資戦略は、グラハムの投資理論をベースにバフェットがいくつかの改良を加えながら構成されたとされる。

 グラハムの投資理論は緻密で、かつ、非常に膨大なサブナレッジの集合が存在する。それを、短い紙面で説明することは極めて困難である。しかし、そのエッセンスを抽出し、読者と共有することには大いなる意義があるとも思われる。次回からはグラハムの理論を説明し、読者と改めて学んでみたいと考えている。