グラハムの投資理論を学ぶ:防御型投資

 投資に関する一般的な定義に照らすと、防御型投資とはローリスク・ローリターンに象徴される、元本担保指向型投資を意味する。例えば、株式よりも債券、債券ならば私債よりも公債といったような、あくまでもリスクを回避するイメージが先行する。しかし、グラハムが定義する防御型投資では元本を担保することだけが目的ではなく、割安な株式を発掘することも目的に含まれる。しかも、割安な株式が発掘されたとしても、その株式が本当に安全なものであるか否かを判断するという、まさに部分的会社オーナー(Partial owner of the company)的発想が展開される。

 では、グラハムは、株式の安全性を見るにあたり、対象企業の何を見ているのであろうか。以下に羅列してみたい。

企業の規模

グラハムは、投資先の企業にある程度以上の規模を求めている。この発想は、筆者の想像では、世界恐慌の結果投資先の株式が紙くずになった苦い経験に端を発していると思われる。投資先の業種や業態はともあれ、その会社にある程度の事業規模がないと駄目だというのだ。シュンペーターの謳うような「創造的破壊」のコンセプトから見れば恐ろしく保守的だが、自分のお金を守ろうとする投資家にしてみれば、「ベンチャー企業」などというわけのわからない、しかも企業規模が恐ろしく小さい会社に投資することほど馬鹿げていることはないのであろう。その意味で、ライブドアを支えたデイトレーダー達が、今から100年以上も前に生まれたこの伝説的投資家の警告に耳を傾けていたらと、今でも悔やまれてならない。

では、グラハムの言うある程度以上の規模とはどれほどのものであろうか。グラハムは言う「製造業であれば最低1億ドルの年間売上、公的関連企業であれば5千億ドルの純資産があることが必要である」。この発言がなされたのは1970年のことであるが、現在のインフレ調整後の価値感覚では、それぞれ4.65億ドル(日本円で539億円)、2.32億ドル(日本円で269億円)ということになろう。

 なお、現在に生きる筆者は補足しなければならない。グラハムの上の発言がなされた1970年という時代は、まさに製造業が世界経済を牽引していた絶頂期であった。製造業は、売上が企業規模のスケールを物語るが、それを現代の産業構造にそっくりそのまま当てはめることはできないであろう。現在では、ネット企業に代表されるように、モノよりもサービスが経済を牽引している。そのため、純粋に売上絶対額を投資評価指標として採用することには危険がある。それゆえ、筆者は、売上から原価を引いた粗利の金額を尺度にすべきであると考える。つまり、粗利の金額が220億円以上の規模をひとつの条件とすべきであろうと考える。
(次回へ続く)