グラハムの投資理論を学ぶ:安全域とファンダメンタルズ理論

 グラハムの投資の基本が防御型投資にあることを既述した。そして、防御型投資の理論的基盤がMargin of safety(以下、「安全域」と呼ぶ)にあることも既述した。では、安全域の考え方とはどのようなものであろうか。

 そろそろ、いわゆるファンダメンタルズ理論またはファンダメンタルズ学派について解説をする必要があろう。なぜなら、グラハムの発案による安全域のアイデアこそ、後のファンダメンタルズ学派の提唱した投資理論の先鞭となったからである。

 ファンダメンタルズ学派および安全域のコンセプトのいずれも、株式のIntrinsic Value(以下、「本来価値」と呼ぶ)を理論の出発点にしている。本来価値とは、グラハムによれば、「株式の正当なる値段」であり、現代風に言えば「清算価値」ということになろう。先日のライブドア事件に照らせば、ライブドア上場廃止後における「清算価値」が本来価値であり、一方、株式が本来価値より安値で取引されていればその分割引が発生する。その割引をグラハムは安全域と呼ぶ(なお、後述するが、ファンダメンタルズ学派の一部では、株式の本来価値を清算価値ではなく、配当および配当性向の、それぞれにおける割引率(Discount Rate)に置く向きもある。配当という、キャッシュによるリターンを重視する考え方で、最近のEBITDA(Earnings Before Income Tax, Depreciation, and Amortization)的DCF(Discount Cash Flow)の計算方法にもその思想が色濃く反映されている。なお、EBITDAは、最近の投資銀行がほとんど共通指標として採用している収益評価方法である)。

 一方で、低PER株式も軒並み「安全域」が確保されたと認識できないかという疑問も生じる。しかし、グラハムは、投資条件において投資先企業の安全性を求めている。つまり、低PERであったとしても、その株式が「配当を過去十年間行っていない」というケースであれば、投資は実行されないことになる。

 ここまで説明すると、大抵の人は、「そんな夢みたいな投資先があるわけないじゃないか。そもそも市場が効率的であるという前提で株価は「適正」に維持されているんじゃないか」という反論を持たれる。確かに、「市場が完全に合理的」であれば、そのような疑問を成立させるに充分であろう。しかし、読者もご存知の通り、逆に株式市場が「完全に合理的」であることは珍しく、「恐ろしく不合理な」展開をしつづけていることをここであらためて説明する必要もなかろう。

 グラハムは、投資先の株価の「割安感」と安全性を確保する投資技術として「安全域」のコンセプトを制度化した。なお、バフェットの投資理論の基本も、「安全域」を踏襲したかたちで形成されている。
(次号に続く)