グラハムの投資理論を学ぶ:安全域とファンダメンタルズ理論

 一方、ファンダメンタルズ学派の一部は、配当というキャッシュのリターンに割引率を適用することで株価の割安感をはかろうとしたことを既述した。なお、改めて説明するまでもないが、ファンダメンタルズ学派とは、学術的には、株式投資における株式の本来価値を求めることが可能であるとしており、その前提により投資の最大効率をもとめようとする一連の学派のことである。

 なお、このコンセプトの創始者であるグラハムは、株式の本来価値と配当とを明確に分けて評価している。株式の本来価値とは、現代風に言うところの「清算価値」であり、その企業が本来正当に評価されるべき価値のことである。しかし、グラハムの生きた時代では、現代並に株式市場を監視するシステムがなく、株価暴落の折には当たり前のように株券が紙くずになっていたので無理がないとも思えるが、これをそのまま現代に適用することには少々違和感があるとも思われる。現代では、有象無象のアナリスト達が株価の「本来価値」を「算定」しており、グラハムの時代のように、あたかもチューリップの球根を取引するといったような、大雑把な取引が成立しないのである。

 要するに、グラハムの定義する安全域とは、「株式の現在取引価を株式の本来価値かrマイナスした額」が基本であり、それに既述したいくつかの基本条件を求めたものである。この発想が、後のファンダメンタルズ学派勃興の礎になったとされる。

 ここまで論じていると、総じて、「そんなことは現代の投資家にとっては至極当たり前のことではないか。低PER株を拾え、安全性を担保しろ、成長性に注目しろ、などということは、すべからく全ての証券会社が営業トークで言っているではないか」という声を聞く。しかし、あえて申させていただくと、最近の我が国の株式市場は、とりわけ急性のバブル市場的要素が強く、グラハムを含むファンダメンタルズ学派の理論を無視する傾向があるように思われる。「無視」というには語弊があるかもしれないが、例えば、上場廃止が決まったライブドアの株式を、短期利ざやを目指してチャートの上げ下げに応じて売買するというのは、グラハムにしてみれば「愚か者」の行為でしかないであろう。そして、「現代」の証券会社とは、一方で、チャートの上げ下げを材料に、投資家に対し「最後の大博打」を行うよう促すのも事実である。

 繰り返しになるが、ファンダメンタルズ学派の古典的理論は、グラハムの主張に拠るところが大である。ファンダメンタルズ学派の理論については後ほど詳しく解説したいが、その前に、上述したバブル投機について少々論じてみたい。なぜなら、最近の我が国株式市場の様相は、まさにバブル的様相を呈しており、グラハム的に言うなれば、「危険水域」に突入した感を覚えるからである。次回からは、読者とともに今一度バブル投機について検証してみたいと考える。