グラハムの投資理論を学ぶ:オランダのチューリップバブル

 このように、オプション取引レバレッジ効果を発揮するが、それは投資が成功した際のリターンを拡大させ、一方、失敗した際のリスクを増大させる。先のライブドアへの投資において、少なからぬ数の投資家が信用取引で甚大な被害を受けたが、時のオランダにおいても、このようなオプション取引を使って一儲けしようとたくらんだ大衆層が、バブルの終焉によって大きな被害を受けることになる。

 『群集の異常な迷信と狂気の記録』という題で、こういった類の出来事の年代記をまとめたチャールズ・マッケイは、「国全体が正常な経済活動をそっちのけにして、チューリップ球根への投機に浮かれた」と書いている。それによると、「貴族も、平民も、農民も、職工も、水夫も、人夫も、メイドも、煙突掃除人も、年老いたお針子までも、チューリップ熱にとりつかれたのであった。誰もがチューリップ熱は永遠で、世界中から買い手がオランダにやって来て、どんな値段ででも言い値でチューリップを買ってくれると考えていたかのようであった」なるほど、マッケイの観察によると、投機熱に取り付かれた群集の心理というものは世の東西を問わず万古普遍のようである。彼の文章を読むと、我が国で20年ほど前に起こったバブル経済を髣髴とさせられるではないか。

 たかが球根の値段がこれ以上上がるわけはないと最初は馬鹿にしていた「分別のある人々」も、友人や身内が巨大な利益を上げるのを目の当たりにして、実に悔しがったものである。そして、自分たちもそのゲームに参加したいという誘惑に打ち勝つことは並大抵なことではなかった。そして、実際に、チューリップへの投機という甘い誘惑に負けて、ついには最後まで参加しなかったという人は、ほとんどいなかったのである。

 オランダのチューリップバブルのピークは、1634年から1637年までの数年間であったとされる。その頃になると、欲に目がくらんだ人々は、自分の保有する土地、宝石、家具などと引き換えにまでしてチューリップの球根を手に入れようとしたのである。しかし、どのバブルにおいてもそうであるが、バブルはピークを形成した後、価格が余りにも高くなりすぎると一部の人たちが売って利益を得ようと考え始める。すると、他の人たちがそれに続く。こうなると後は坂を転げ落ちるように価格の下落が加速度的に進み、わずかの瞬間にパニック状態に陥る。

 バブルの崩壊は売りの連鎖によってパニックを併発する。いったん売りの連鎖が始まると、誰もが少しでも損失を回避しようと誰よりも早く売りに走る。売り注文は殺到し、買い注文が皆無の状態に陥る。先のライブドアショックの時と同様、過去のオランダ人達も、盛大な宴の終焉においては、一気に奈落の底に落とされたようである。
(次回へ続く)