グラハムの投資理論を学ぶ:オランダのチューリップバブル

 またたくまにおとずれたチューリップバブルの崩壊を受け、時の政府高官は、チューリップの価格がこれ以上下落する合理的な理由は何もないと公式に宣言したが、それに耳を傾けるものはいなかったようだ。価格下落に対する救済措置として、オランダ政府はさらに、チューリップ売買におけるオプションを契約価格の10%で清算するという方針を打ち立てたが、実勢価格がそれをさらに下回ってしまったために、まったく実現しなかった。そして、チューリップの価格はその後も下がり続け、最終的にはほとんど取引が成立しない価格水準まで落ち込んでしまった。

 なお、オプション取引のほとんどは私的な相対取引で行われていたため、オランダ全体が大混乱に陥った。当時の相対取引は、居酒屋などで主に行われ、簡単な契約条項が記載された現代でいう手形を交換することにより成立していた。また、オプションプレミアムの支払い方法も、現金で支払われるケースもあれば、「いついつまでに現物で支払う」という、現代でいう約束手形で支払われるケースもあった。また、それらの手形や約束手形が、これまた現代でいう裏書され、第三者に譲渡されたり交換されたりし、事態をいっそうに複雑にした。これらが、バブルの崩壊によって一気に表面化し、混乱にさらなる拍車をかけることにつながった。

 オランダのチューリップバブルは、チューリップそのものの取引が成立しない状態、つまり、値段そのものがつかない状態にまで崩落することによって終焉した。そして、オランダは、つい最近までの日本と同様、その後長く続く経済停滞によって苦しまされる結果に終わったのである。

 オランダのチューリップバブルから我々が学ぶべき点は何であろう。第一に、投資する対象の本質的価値をきちんと把握する必要性であろう。グラハムは、投資対象の安全域をあらかじめ計算することの必要性を繰り返し主張しているが、チューリップバブルに照らすと、チューリップの本質的価値を把握する必要性と、そもそもチューリップに本質的価値が求められるのかという疑問をしっかりと検討することが重要であろう。

 第二に、投資する対象の、配当性向を含めたリターンをしっかりと計算する必要性が挙げられる。チューリップが何のリターンも生み出さないことは明確であるが、この単純なルールを守っていれば、時のオランダ人の中でも破産を免れた人は多数いたであろうと想像される。

 第三に、オプション取引信用取引を行う際は、それを担保するに足りる金融的裏づけを確実に持つ必要があるということである。金融的裏づけのない信用取引を行うこととは、食料を持たずに未開のジャングルに飛び込むようなもので、そもそも投資の基本からまったく逸脱していることを改めて認識しなければならない。
(次回へ続く)