グラハムの投資理論を学ぶ:南海泡沫事件

 この当時の投資家は、「新興企業」でさえあればどんなものにも食らいついたように思われる。現代の我々から見ると恐ろしく滑稽であるが、しかし、当時の投資家はいたって真面目であったのかもしれない。熱狂が彼らを盲目にしたとしか思えないが、この当時の投資家が投資した新興企業の主なものを眺めてみよう。これは、現代の我々が、他山の石として見ることができるシロモノであろう。

・(ロンドン郊外の)ディーン市へ飲料水を供給する会社
・人の毛髪を輸入する商社
・船乗りたちの給与を保証する会社
・海賊から襲撃を受けない船を建造する会社
・馬の品種改良を行う会社(この種の会社は二社あった)
・イギリス北部、およびアメリカからタールを輸入する商社
・「馬」に対する損害保険会社
・石鹸製造技術を「向上」させる会社
・潤滑油製造会社
・庭園整備会社
・児童の「将来」を保証する会社
・「永久運動」を実現する機関への「車輪」を供給する会社
バージニアアメリカ)からクルミを輸入する会社
・「少ない掛け金」で未亡人などの生活を保障する会社
・「石炭」から「鉄」を製造する会社
・「少量の鉛」から「大量の鋼鉄」を製造する会社

「石炭から鉄」を製造する会社と、「少量の鉛から大量の鋼鉄」を製造する会社という、いずれもそれぞれにインチキくさい会社が「競業」している時点で既にイカサマじみているが、当時の人々はそれでもこぞってこれらの「新興企業」に投資をしたのである。熱狂が支配する市場では、投資家はまず、投資先の「新規性」や「話題性」にのみ着目するのであろう。しかし、何といっても圧巻は、「誰にも実体はわからないが、多大な利益の上がる事業を行う会社」であろう。この会社の設立目論見書には前代未聞の利益が約束されており、人々の関心はおのずから高まった。この会社の株式購入申し込み受付が始まった朝9時にはあらゆる階層の人々が群れをなして受付場所に殺到した。そして、受付開始から5時間後には実に1,000人に及ぶ投資家達がこの会社の株式を買うために資金を払い込んだのである。しかし、多くの投資家の期待を集めたこの会社の社長は、実はいたって用意周到な人物であったとみえ、投資家からカネを集めるや即座に店をたたみ、そのままヨーロッパ大陸へ渡っていってしまった。そして、彼のその後の消息は、ついにわからなくなってしまったのである。
(次回へ続く)