グラハムの投資理論を学ぶ:南海泡沫事件

 オランダのチューリップバブルや今回の南海泡沫事件といった、歴史上の大きな経済事件を見事な筆致で記したチャールズ・マッケイは、南海泡沫事件について次のように記録している。

 「1720年の秋にイギリス国中のおもだった町で集会が開かれた。そこでは、その詐欺的なやり方によって国を破滅寸前にまで追いやった南海会社の経営陣に対し、政府が復讐をしてくれるよう祈る請願が採択された。イギリス国民自体が南海会社と同様の過失があったと思っている人は誰もいないようである。(南海会社に投資した)人民の軽信と貪欲を非難した人は誰もいない。これは堕落した利得欲、または熱狂であって、そのために大勢の人が、陰謀をめぐらした企画者たちが張った網の中に狂ったように夢中になって頭を突っ込んでしまったのだ。しかし、こうしたことについては、なんら言及されていない」

 現代においても、先のライブドア事件によって被害を蒙った投資家達が「ライブドア被害者の会」を結成し、同社と同社の元経営陣に対する責任追及と損害賠償請求の訴えを起こすべく活動を開始している。歴史は繰り返すが、300年前のイギリスにおいて南海会社に投資した人々が自らの過ちをほとんど省みず、いたずらに南海会社の経営陣の責任を追及している姿が、今日の我が国において再現されている。

 さて、チューリップバブルに続いてイギリスの南海泡沫事件をご紹介させていただいた。人間の記憶とは、なぜこのように短命なのであろうか。なぜ人々は過去から学ばずに、自ら進んでドブにカネを捨てる行為をやめないのであろうか。しかし、「こういった事例を研究することは、投資家が身を守る上で大いに参考になる」といったバーナード・バルークの説に、筆者は全面的に賛成するところである。我々は、やはり過去から学ばねばならない。

 南海泡沫事件で経済的損失を蒙った人々の中に、かのアイザック・ニュートンも含まれていた。一連の投機騒ぎの渦に巻き込まれた彼は、自ら2万ポンドという大金を投資し、その全てを失ってしまった。この金額は、現在の価値にすると1億2千万円に相当する金額である。彼は、一種の狂信者集団と化してしまった当時のイギリス社会を省み、次のような嘆きの言葉を発したといわれる。

 「私は、天体の軌道の計算はできるが、人々の狂気ばかりは計算できない」

 天才科学者ニュートンでさえ避けられなかったバブルの魅惑は、今後も人間の弱い心をとらえてはなさないことであろう。さて、次回からは偶然にも南海泡沫事件と同じ時期にフランスで発生した別のバブル事件、「ミシシッピ会社事件」について解説しよう。