アメリカのバブル事件:トロニクスバブル

 アメリカという、資本主義の覇者として今日君臨する国は、設立から今日に至るまでに数多くのバブル経済を経験している。筆者の目には、アメリカ国家そのものが人類史上におけるひとつのバブルとして映る時もある。斯様にアメリカはバブルの話題に豊富な国であるが、今回は、1960年代にアメリカで発生したいわゆるトロニクスバブルをご紹介しよう。

 トロニクスバブルとは、アメリカにおいて株式市場が電子化され始めた1960年代に発生した、新興企業に対する一連のバブル経済のことを意味する。この、新興企業に対するというところが重要であるが、このバブル事件は、後に数多く発生する、ベンチャー企業に対するバブル経済のさきがけになったとされる。

 さて、ここで言うトロニクスとは、Electronicsに代表される英単語の、tronics の部分を指す。なぜ、この部分が抽出されて歴史上の一般用語になったのか、疑問に思う読者も多いと想像する。

 株式市場において、株価を上げる要因はファンダメンタルズ以外に拠るケースが多いのは改めて説明するまでもないであろう。株価、特にバブルを構成する株式の株価は、ファンダメンタルズを超越した何らかの価値に基づいて形成される。その主因となるものが、人々の熱狂であることが多い。

 そこで問題になるのは、何が人々の熱狂を構成するかということであるが、これを議論するには、多分に心理学的または文化人類学的なアプローチが必要になるであろう。いずれにせよ、ここで読者と共通に認識しておきたいのは、バブルを構成する人々の熱狂の火種となるのは、何らかの情報であり、また、その情報を担保する投資対象企業の成長性、およびそれを連想させる一連の材料ということである。そして、その材料とは、ほとんどの投資家にとって退屈で陳腐なものではなく、何らかの輝きをもつ、子供でもわかるような神秘的で魔術的なものである必要がある。

 投資家を魅了する材料として都合がいいのは、まずは投資先の信用である。先にご紹介した南海泡沫事件やミシシッピ会社事件では、会社そのものの信用を背景に莫大な投資を獲得した。南海泡沫事件においてはイギリス政府が、ミシシッピ会社事件においてはフランス政府が、それぞれ自ら主宰者として国民のカネを引きずりだしていたのである。投資家は、投資先の信用を評価するにあたり、社会学でいうところのラベリング(Labeling)という行動を一般的に取る。これは、その会社に貼り付けられたラベルが、そもそもどのような意味をもち、そして、どのようなメッセージを発しているかを一義的に解釈しようという行動である。そして、ラベリングにおいて重要なのは、そのラベルの名前そのものであり、かつ、その名前がいったい何を意味しているのかという点にある。
(次回へ続く)
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