アメリカのバブル事件:トロニクスバブル

 会社のラベルとは、まさに会社の社名そのものを指す。会社の社名は、経営学者の間でも色々な角度から議論の対象になるが、投資においても重要な意味を持つ。例えば、GMつまりゼネラル・モーターズという社名は、その決定までに3年の期間を要したとされる。GMは、ビュイックオールズモビル、シボレーといった会社が合併して組織されたが、合併会社の社名を決定するにあたり、同社中興の祖アルフレッド・スローンが、社名決定会議を実に丹念に開催し、同社の戦略性を充分に含みうるいくつかのパターンを徹底的に検討したとされる。なお、ゼネラル・モーターズという社名には、当初から経営陣による世界戦略性が包含されている。

 話はそれるが、アメリカ優良企業の社名には、このように経営者の戦略性を包含するものが多い。例えば、創業当時より世界市場を視野に入れていたロックフェラーによるスタンダード・オイルや、当初は電線を製造していたIBM(なお、IBMとはInternational Business Machine の略である。これは、直訳すると「国際事務機器」になる)、最近ではゲイツ氏のマイクロソフトといったところが挙げられるであろう。このあたりは、例えば国家を代表する企業の社名を鑑みて、その国の資本主義の成熟度を評価する趣になぞられるのである意味興味深い。東海銀行三和銀行が合併してUFJ銀行になり、また、三菱銀行東京銀行が合併して東京三菱銀行になり、さらには、そのふたつが合併して三菱東京UFJ銀行になるというのは、とどのつまり、この国は単なる官僚主導による社会主義国家に過ぎないのかと悲観的に見て取れる。

 さて、トロニクスバブルが発生した1960年代初頭の株式市場においては、「成長」が魔法の言葉であった。成長とは、その時代そのものがこれから体験するであろう夢と希望に溢れたひとつの魔術的なキーワードであった。株式市場においては、テキサス・インスツルメンツやヴァリアン・アソシエイツといった、当時における新興ベンチャー企業の、輝かしい未来が広くあまねく投資家に受け入れられる夢のような時代である。そして、ニューヨーク証券取引市場においては、それらの有望なベンチャー企業の株式が、PERにして50倍から100倍の高値で取引されていたのである。

 この時代における投資の原資が、いったいどこに潜んでいたのかは俄かに判然としないが、いずれにせよ、当時の投資家達は、テキサス・インスツルメンツ社の華々しいデビューに触発されたかのように、次なるテキサス社の発掘に乗り出し始めた。現在でも同様であるが、IPO株というものはそぞろに投資家の興味と関心を引くもので、人々はこぞって新興の、しかも未公開の、ベンチャー企業探しに熱中した。そして、ここで重要なテーマになったのは、そのようなベンチャー企業とは、テキサス・インスツルメンツ社と同様に、何らかの「電子的」な仕事をしている必要があるということであった。つまり、投資家は「電子業界」こそ新時代の金脈であり、限りのない利益を約束するものであると、心から信じていたのである。
(次回へ続く)
【PRコーナー】http://www.wintrade.jp/pc/default.aspx?aid=7620