アメリカのバブル事件:トロニクスバブル 3

5月1日から連載を開始した
アメリカのバブル事件:トロニクスバブル」 ★★本日3日目★★


前回までのあらすじ
→トロニクスバブルとは、1960年代にアメリカで発生した
 新興企業に対する一連のバブル経済のこと。
 トロニクスはElectronicsという英単語のtronics の部分。
 当時の株式市場では「成長」が魔法の言葉であり、
 人々は新興で未公開のベンチャー企業探しに熱中した。
 特に「電子業界」は新時代の金脈であり、
 莫大な利益を約束すると心から信じられていた。

http://www.wintrade.jp/pc/default.aspx?aid=7620



アメリカのバブル事件:トロニクスバブル 3
 ある会社の成長性、ひいてはその会社の属する産業全体の成長性こそ、当該企業の将来株価を裏付ける決定的な要因になる。市場の拡大と、それに伴う売上と利益の増大が、当初は単なる一ベンチャー企業に過ぎない当該企業の株価を過大に評価し、また、実際に会社が成長することにより、長期的に投資家に巨大なリターンをもたらす。まさに、成長性とは企業の大化けをイメージさせる魅惑的なキーワードである。1960年代にアメリカで発生したトロニクスバブルの主戦場は、次の数十年における限りない成長が予想された「電子業界」であった。そして、「電子」というキーワードは、そのまま「成長」という言葉に置きかえられ、さらに、その言葉に置きかえられた会社の株価は、置きかえられたという事実だけをもってのみ過大に評価された。

 さて、トロニクスバブルにおけるキーワードである「電子」は、Electronics(エレクトロニクス)が原語である。そして、トロニクスバブルにおいては、この「エレクトロニクス」という言葉が、何らかのかたちで盛り込まれていることが重要であった。つまり、投資家が「エレクトロニクス」という言葉の響きを感じ取れることが重要なのであった。

 例えば、トロニクスバブルの初期に上場したアメリカン・ミュージック・ギルドという音楽ビジネスのベンチャー企業がある。この企業、社名を直訳すると「アメリカ音楽家互助会」になるが(この時点で、この会社が「エレクトロニクス」とは何ら関係がないことがわかるであろう)、事業内容はレコードとレコードプレーヤーの訪問販売であった。しかし、利益に聡い当社の経営陣は、「エレクトロニクス」の名前を社名に戴いた会社の株価が急騰しているのを目にし、上場直後に社名を突然「スペーストロン」に変更した。その結果、上場時点でわずか2ドルで取引されていた株価は何と7倍に跳ね上がり、14ドルの高値がついたのである。

 トロニクスバブルにおいては、社名こそが鍵であった。トロニクスバブルにあやかろうと社名を「エレクトロニクス」的に変更する会社が続出し、また、新興企業でも、「トロン」「トロニクス」「ニックス」という語を戴いた企業が続出した。言うまでもないことであろうが、それらの会社のほとんどは、「エレクトロニクス」とは何ら関係のない事業を展開していたのである。重要なのは社名であり、その社名が魅惑的で、インパクトがあることが投資家へのアピールポイントだったのである。

 例えば、トロニクスバブルの時期に「トロン」と名のついていた会社は、アストロン、ドットロン、バルカトロン、トランジトロン等々多数あった。また、「ニックス(Nics つまりElectronicsのnics)」という名のついた会社も、サーキトロニクス、スプロニクス、ビデオトロニクス等々あり、さらには、「トロン」と「ニックス」の両方の名を戴いた会社も複数社存在した。まさに、トロニクスの花盛りといったところであろう。
(次回へ続く)