アメリカのバブル事件:トロニクスバブル 4

5月1日から連載を開始した
アメリカのバブル事件:トロニクスバブル」 ★★本日4日目★★

前回までのあらすじ
→トロニクスバブルとは、1960年代にアメリカで発生した
 新興企業に対する一連のバブル経済のこと。
 トロニクスはElectronicsという英単語のtronics の部分。
 当時の株式市場では「成長」が魔法の言葉であり、
 人々は新興で未公開のベンチャー企業探しに熱中した。
 特に「電子業界」は新時代の金脈であり、
 莫大な利益を約束すると心から信じられていた。
 そして、トロニクスバブルに便乗しようと、社名に
 「エレクトロニクス」的言葉を入れる企業が続出した。

http://www.wintrade.jp/pc/default.aspx?aid=7620


アメリカのバブル事件:トロニクスバブル 4

 現在でも有力なアメリカの投資銀行であるドレイファス証券のジャック・ドレイファスは、この狂気のトロニクスバブルについて、次のようにコメントしている。

「これまで40年間、靴の紐を製造してきた堅実な小規模会社で、株価収益率が6倍の会社があったとしよう。この会社、シューレース株式会社(筆者注:シューレース、Shoe laceとは靴紐という意味)が、トロニクスバブルの最中に社名をエレクトロニクス・アンド・シリコン・ファース・バーナーズ(Electronics and Silicon Furth-Burners)に変更したとしよう。今日の市場では、「エレクトロニクス」と「シリコン」の組み合わせは株価収益率15倍に相当する。しかし、本当の鍵は、「ファース・バーナーズ」という、誰にも理解できない言葉に隠されている。誰にもわからない言葉というのは、総合評価を倍増させる効果がある。ということは、靴紐製造の事業そのものの株価収益率が6倍、エレクトロニクスとシリコンの名前で15倍、それらの合計で21倍の価値がある。これがさらに、「ファース・バーナーズ」というわけのわからない名前のために、株価収益率は42倍にもなるのである」

 以下の表は、この時代の代表的な新規公開銘柄と、それらの公開後の値動きを示している。トロニクスバブルに便乗したベンチャー企業も、少なくともある一定の期間は、公開後にかなりのパフォーマンスを呈していることがわかるであろう。

ブーントン・エレクトロニクス 公開日1961年3月 
公開価格5.5ドル 初値12.25ドル 1961年最高値24.25ドル 1962年最安値1.625ドル
 ハイドロ・スペース・テクノロジー 公開日1960年7月
公開価格3ドル 初値7ドル 1961年最高値7ドル 1962年最安値1ドル
 ジオフィジックス・コーポレーション 公開日1960年12月
公開価格14ドル 初値27ドル 1961年最高値58ドル 1962年最安値9ドル

 しかし、これらの会社はいずれも、1962年に安値を記録してから10年もたたないうちに廃業の結果を迎えている。トロニクスバブルの熱狂だけを成長の原資にしていた会社は、結果的には相応の結末を迎えるようである。

 トロニクスバブルは、1962年の終わりには完全に瓦解した。1962年の初めより暴落が始まり、その5ヶ月後には大売りの様相となった。それまでの成長を支えた新興企業株はいずれも崩壊し、トロニクスバブルと何ら関係のないまともな企業の株式もつられて下落した。そして、昨日までの注目株は、上場からわずか2年で紙くずとなってしまったのである。過去に発生したバブルと同様、終わりは突然やってくる。そして、終わりが告げられる時、バブルを支えた人々の多くは経済的に破綻する。トロニクスバブルの崩壊によって、多数の投資家が巨額の損失を蒙ったのである。
(次回へ続く)