アメリカのバブル事件:トロニクスバブル 5

5月1日から連載開始したアメリカのバブル事件:トロニクスバブル」
★★★本日5日目★★★ いよいよ本日、最終回!!

明日からは次のアメリカのバブル事件をお伝えします!お楽しみに☆☆☆

前回までのあらすじ
→トロニクスバブルは1960年代にアメリカで発生したバブル経済
 トロニクスとはElectronicsのtronics の部分である。
 当時の人々は新興で未公開のベンチャー企業探しに熱中し、
 特に「電子業界」は新時代の金脈と信じられていた。
 そしてこのバブルに便乗しようと、社名に「エレクトロ
 ニクス」的言葉を入れる企業が続出した。
 しかし、このバブルは1962年の終わりに終焉をむかえ、
 多数の投資家が巨額の損失を蒙った。


http://www.wintrade.jp/pc/default.aspx?aid=7620



アメリカのバブル事件:トロニクスバブル 5

 話はそれるが、先日、アメリカ経済学界の重鎮ガルブレイス氏が逝去された。ガルブレイス氏は、経済学の世界では比較的リベラルなポジションで知られた方であるが、バブルの研究における業績にも目覚しいものがあった。筆者も、ガルブレイス氏の著作から学んだ事は数知れない。ここにガルブレイス氏のご冥福を謹んでお祈りする。

 アメリカのトロニクスバブルは、バブルの常道に従い、一連のインサイダーによる利益獲得の「売り」から暴騰が始まった。インサイダーにはトロニクス企業の経営陣や、株式の売買に関係した証券会社のトレーダーやバイヤー、およびそれらに近い位置にいたアナリスト等が含まれている。バブルの構成においてインサイダーが果たす機能と役割は古今東西同一であるが、株式の売買が電子的に行われ始めた1960年代初頭においてのインサイダー取引は、過去のバブルの時とは比べようが無いほどの指数関数的インパクトをもたらす。情報伝達が高速で行われ、売りの連鎖が開始されるや、崩落の速度は壊滅的なレベルに達したのである。トロニクスバブルの終焉で株式が紙くずになるまで、最短で12ヶ月の期間しか有しなかったのである。

 ガルブレイス氏は、自らの著作の中で、投機の波に乗ってバブルの崩壊で損をする人間は馬鹿であるとか、愚か者は金を失うよう運命づけられているとか極めて露骨に述べている。愚か者は、いくら賢者が警告を与えようと、自らのカネをドブに捨てる行為をやめないのである。トロニクスバブルで損したアメリカの投資家は、そのままおとなしく自宅に蟄居しているようなことはなかった。証券業というものが高度に発達したのは第二次世界大戦後であるが、この、ひとつの花のような時代における証券業者は、次なるバブルの種を提供することについては、過去の同業者達よりもはるかに多くの知恵と武器を持っていた。この時代の証券業者は、トロニクスバブルはひとつの商品の終わりに過ぎず、商品の中には損をするものもあるのだという論法をもって投資家を沈黙させることに成功した。そして、商品の中には、逆に儲かるものもあるのだという、魅惑的な言葉のスパイスを加えることも忘れていなかった。

 成長性の高い産業は時の優秀な人材を集めるものである。こらから花開かんとしている証券業界は、当時のアメリカのベストアンドブライテストを集め、彼らの偉大な才能を余すところなく開花させた。そして、彼らの編み出した次なるキーワードは、「シナジー」というものであった。トロニクスで損を蒙った投資家は、まさに優秀な証券マンからたくみに騙されるように次なるキーワード「シナジー」に興味を持ち始めた。そして、トロニクスバブルの傷跡の癒えぬ1960年代半ばには、少なからぬ数の投資家がこの「シナジー」に大きな関心を持つようになった。後に「コングロバブル」と呼ばれる別のバブルを構成する「シナジー」は、このようなかたちで、着実に、かつスピーディーに、アメリカの投資家達を魅了していったのである。
(次回へ続く)