砂上の楼閣理論を解説する 8

投資で勝てる人は、実は一握り
正しい知識を身につけ、知的投資家になろう!

5月19日から始まった「砂上の楼閣理論を解説する」
★★★好・評・連・載・中★★★本日・8日目★★★


前回までのあらすじ
→砂上の楼閣理論学派は、株式のファンダメンタルズ
 より投資家の群集心理を反映した株式の値動きに
 着目する。これはテクニカル分析と呼ばれ、株価
 チャートをつくり、それに様々な解釈を与える。
 そのような活動を行う者をチャーチストと呼ぶ。
 しかしテクニカル分析は、チャーチストの独自の
 解釈に依存しているため、科学性と論理性が欠如して
 いる。チャート分析は天気予報的統計学的手法か、
 占いのような手法を採るのが一般的なのだ。
 チャーチストはさらに、自分たちの投資アプローチ
 の正当性の根拠を投資家の一般的な「習性」とする。

http://www.wintrade.jp/pc/default.aspx?aid=7620


砂上の楼閣理論を解説する 8

 このように見てみると、チャーチスト達が占いの基盤とするものは、一般投資家の群集心理であることが理解できよう。これこそ、ケインズが主張した美人投票論と同根の概念である。ケインズは言う。美人投票のゲームに勝つには、自らが審美眼を持つ必要はない。自分で美女を評価し、他者へ喧伝することなどもってのほかである。勝つためには、自分が美しいと思う女性に投票するのではなく、あくまでも「他の大多数の参加者が美しいと思うであろう女性」に投票することが必要なのである。そして、チャートとは、個別の女性の人気度や、今後の得票動向を示唆する「過去の実績」であり、それを注意深く見ることで、どの女性が最大公約数的得票を果たすかをある程度予測することができるのだという。

 しかし、ここまで読んでいただいて、我が読者の中には、チャーチスト達のこのような主張に対して何らかの疑問を感じる方もおられるであろう。その疑問の最たるものは、チャートのみを投資判断の拠り所とすることは、車の運転に例えればバックミラーだけをみて前に進もうとするようなものではないか。つまり、チャーチスト達の主張によれば、チャートという過去の記録こそ、対象企業のファンダメンタルズを含んだ全ての特性を余すところなく包含しており、いうなれば分析対象としての密度が濃いというのである。しかし、上の美人コンテストになぞれば、確かに美人コンテストに参加する女性達の過去の実績をチャート的に分析することはある程度できたとしても、その女性における未来の行動を予測することは必ずしも出来ない。美人コンテストに負け続けた女性が、態勢を挽回すべくある日突然美容整形手術を受け、翌月から一気に人気ナンバーワンになる可能性は誰も否定できない。

 チャートの弱点とは、過去の蓄積情報のみに判断基準を置くことにある。これは、例えば投資先企業がマイナスの局面にある時において顕著になる。例えば、ファンダメンタルズが著しく悪化したある企業が、市場に話題性を提供することによってのみ株価を維持していたと仮定する。その場合、同社の株価は、少なくとも短期間においては、チャート分析的見地からは何ら問題がないように見えるであろう。しかし、会計原則をある程度不透明にすることによって決算の見かけをよくすることはこのような企業の行く常道であり、例えば同社が架空売上の計上などによって業績好調を演出するなどといったことをしていた場合、チャーチストの導く解とは、とどのつまり根拠不十分または根拠不存在ということになろう。先のライブドア事件もそうであったが、このようなケースでチャートが「記録」された場合、投資家は集団的行動として買いを続けてゆくであろう。そして、それがチャーチスト達の主張をさらに強固なものにし、チャートそのものもますます強固にしてゆく。そして、この恐るべき負の連鎖は、同社の「ファンダメンタルズ」が露呈する場面において、ようやく終決することとなる。そして、そのような終決とは、往々にしておびただしい損失をもってなされるのである。
(次回へ続く)