砂上の楼閣理論を解説する 10

投資で勝てる人は、実は一握り
正しい知識を身につけ、知的投資家になろう!

5月19日から始まった「砂上の楼閣理論を解説する」
★★★好・評・連・載・中★★★本日・10日目★★★


前回までのあらすじ
→砂上の楼閣理論学派は、株式のファンダメンタルズ
 より投資家の群集心理を反映した株式の値動きに
 着目する。これはテクニカル分析と呼ばれ、株価
 チャートをつくり、それに様々な解釈を与える。
 そのような活動を行う者をチャーチストと呼ぶ。
 しかしテクニカル分析は、チャーチストの独自の
 解釈に依存しているため、科学性と論理性が欠如して
 いる。また、チャートは過去の蓄積情報のみに判断
 基準を置いていることも弱点なのだ。
ところで、企業の財務諸表は見ばえや機能、それが表現
 するものも重要であるが、より重要なのは「それが隠し
 ているもの」である。そして隠したいものの内容が重要
 な場合、見かけの派手さとバラエティが豊富になる。

http://www.wintrade.jp/pc/default.aspx?aid=7620


砂上の楼閣理論を解説する 10

 このように、企業の財務諸表が少なからず何かを「隠している」とした場合、チャーチスト達の主張はすべて誤謬であるということになりかねない。なぜなら、チャーチスト達の主張によれば、企業のチャートとは、企業のファンダメンタルズを包含した全ての企業情報を正しく反映しており、いずれご紹介するMPTといった考え方も、あらかじめ織り込んでいるというからである。しかし、企業の財務諸表が、企業の実態を正しく反映していないとした場合、それを土台とした企業評価は最初から不十分なものになり、また、それを反映したチャートも、ただの株価推移表にしか過ぎないことになる。

 その場合、例えばIRやコンプライアンスといった観点から企業を評価し、それをチャートと連動させて分析すればいいではないかという意見も聞く。しかし、例えば企業の株主総会が必ずしも「民主的」に運営されていない一般的傾向を鑑みるまでもなく、そもそもIRが本来的な機能を果たしていないということもあることから、企業の実力を測る尺度として採用することは困難であると考える。企業のIRとは、とどのつまりは一般投資家に対するリップサービス的サービスの提供機関であり、株価分析の対象ではない。

 そのように考えると、チャーチスト達の行動とは、やはり単なる星占いのようなものということになってしまうのであろうか。バックミラーだけをたよりに車を運転しようという、愚かな狂信者の集団に過ぎないのであろうか。

 しかし、一方で、筆者は一部の熱心なチャーチスト達による、砂上の楼閣理論の構築に向けた努力は賞賛に値するとも考えている。グラハムに象徴されるファンダメンタルズの考え方を基礎に、その上で市場のサイコロジカルな側面を何らかの科学的手法をもって解明しようというアプローチは評価できる。重要なのは、株価とは往々にして砂上の楼閣を築くことがあり、そして、それはいずれ崩壊するという現実を理解することなのであろう。

 筆者は、基本的なアプローチ方法として、やはり投資先の業界における平均PERを一つの尺度とすべきであると考えている。そして、そのPERから大きく逸脱した株式は、逸脱している原因を調べる必要がある。一般的に、業界平均PERから大きく逸脱している株価は、ファンダメンタルズを超越した砂上の楼閣として構成されているケースが多い。それを前提とした上で、砂上の楼閣づくりに参加しようというのであれば、投じる資金とリスクを十分に鑑み、「いつ撤退するか」を明確にした上で参加するほかない。砂上の楼閣づくりで大金をつかんだとされるケインズは、筆者の想像では、この、「いつ撤退するか」の判断力と、その実行において、他から抜きん出ていたのだと想像する。ケインズほどの英知を持たない筆者は、単に想像するしか術がないが、自己流の撤退戦略を確立し、それを貫徹してゆくことが、このゲームに勝利するための一つの大きなポイントになると考えている。