緊急コラム:村上氏逮捕について 前編

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緊急コラム:村上氏逮捕について 前編

 先週からベンチャーキャピタルの解説を開始した矢先、村上ファンド主宰者村上氏がインサイダー取引で逮捕されるという衝撃的なニュースが飛び込んできた。筆者は、村上氏の投資技法から少なからぬ影響を受けてきたものでもあり、今回のニュースを大変重く受けとめている。今回は、話題を若干変更して、村上氏逮捕について思うところを綴ってみたい。

 改めて説明するまでもないが、村上ファンドを率いる村上世彰氏は、通産省官僚から投資の世界に入った出色の人物である。東大法学部を卒業後、抜群の成績で通産省に入省した村上氏は、頭の回転の速さでは同期中群を抜いていたと言われる。村上氏はその後、我が国上場企業の時価総額が一般的に低評価であることに目をつけ、金融資産をファンド化してそれらを「底値買い」することにより膨大な利益を得てきたことは読者も知るところと思う。

 村上氏を一躍有名にしたのは、東京スタイルをめぐる一連のプロキシ・ファイト事件であろう。今でこそプロキシ・ファイトは一般に認知された投資用語になったが、村上氏がこの、我が国初のプロキシ・ファイトを行った当時は、同社の内外から批判と賞賛の両方の渦が沸きあがった。事なかれ主義的なシャンシャン株主総会が一般的であった当時の我が国一般の株主総会に、ある種の黒船的インパクトを与えた功績は実に大きいと言えよう。もともと内部留保蓄積の傾向が強いとされる我が国上場企業において、特にPBOが平均以下の企業において、配当性向を異常に低くされるなど、村上氏に言わせれば「株主軽視」の経営路線が一般的に敷かれてきたことは公然の事実である。村上氏は、言うなればアングロサクソン流の株主資本主義の普及と拡大を目指していた訳で、同氏の基本活動路線は、特に経済の国際化とボーダーレス化が更に進む今後においては、まったく理にかなったものであると言えよう。

 しかし、山本七平がいみじくも喝破したように、日本という国は常に空気に左右される。村上氏がモノ言う株主として阪神鉄道の株式買収を開始した頃より、我が国の世論はおのずと村上叩きに風潮を一変させた。特に、阪神鉄道は阪神球団という、国民的野球チームを傘下に収めており、そのようなことも含めて村上氏への風当たりは日増しに強さを増していった。阪神球団そのものの経営権も左右する事件でもあったことから、同事件に関する世論は嫌が上にも盛り上がり、好悪織り交ぜての議論が世間のあちこちで展開された。

 そういえば阪神球団の経営権問題をめぐっては、元阪神監督の星野仙一氏もコメントしていたが、筆者にしてみれば噴飯ものであった。「野球のことが分からない人間の下で働けるか」という内容であったが、筆者に言わせれば、株式会社の制度が分からない、または株主資本主義の主旨がわからない人間に、経営権のことをとやかくいう筋合いはないと思われる。
(次回へ続く)